クラス分けの問題について

知的パラ卓球競技におけるクラス分けについて

クラス分けは障がいの程度によって勝敗が決定することのないようパラスポーツ競技を行うフェアーな土俵を決めるものであり、パラスポーツの制度を支える基本的な枠組みである。パラリンピック競技としては比較的歴史の浅い知的障がいの場合は、一つのクラスしか設けられておらず、国際知的障がい者スポーツ連盟(前INAS、今はVIRTUSと改名)への登録がまず基本資格として必要とされる。基本資格には以下の3つの要件を満たすことが求められる:① IQ(知 能指数)が 75以下であること; ②日常生活においての出来事に対応する能力に著しい制限があること; ③ 18歳以前で生じた障害であること。この登録申込みは医者の診断書などが必要であり、英語への翻訳など選手やその家族が申請書を仕上げるのには多大な労力と時間を必要とする。この登録が承認されて初めて、VIRTUSの主催する競技会に参加することが可能となる。しかしながら、パラリンピックや国際卓球連盟(ITTF)が主催するパラ卓球国際大会に参加するためには、この登録に加えて、各競技の性質に合わせたクラス分けを受ける必要がある。クラス分けは、その選手の持つ知的障がいが実際に卓球という競技能力を制約していることを証明するためのものであり、健常者と同じ条件では不利(アンフェア)であるから、クラス分けで同程度の障がい(競技能力)を持つパラアスリート同士でよりフェアな土俵で競技させるという考え方である。知的障がいスポーツの場合は、2000年のシドニーパラリンピックで優勝したスペインのバスケットボールチームが健常者をメンバーとしていたことが判明して(障がい詐欺事件)パラリンピックから追放されていた暗い過去があり、医科学に基づいた明確なクラス分けの確立を復帰の条件として求められた。2012年のロンドンパラリンピックでクラス分けの方法を確立してパラリンピックに復帰できたのは、陸上、水泳、卓球の三競技だけであり、それは東京パラリンピックにおいても変わっていない。

知的パラ卓球のクラス分けは、卓球実技のテストと試合形式テスト、コンピューターを使った理解・認識力テスト、実際の大会中の試合の観察などを通じて総合的に行われ、知的障がいの影響が明確にプレーに現れていることを確かめるものである。知的障がいを持っていても、子供の頃から練習を重ねていれば、大半の健常者以上の高い技術力を持つことも可能である。実技テストで高得点になりレビュー(確認待ち)と認定され、二度のクラス分けを受ける選手も少なくない。通常の国際大会だとレビューの資格でも問題なく参加できるのだが、パラリンピックの場合は、確定(confirmed)している選手だけが参加資格を有する。知的障がいのクラス分けは特殊なため、通常でも年に3回ほどしか行われず、コロナパンデミックの状況にあって長い間実施されていない。パラリンピック前の6月にスロベニアにおいて世界予選大会が開催される。そのスロベニア大会の会場でレビューの選手を確定するためのクラス分けが行われる予定となっている。

パラアスリートの夢を守るために

選手たちはパラリンピックに向けて強化練習を続けており、さらなる技術の向上とメダルの獲得が期待される。しかしながら、このような努力による身体能力や競技技術の向上は、クラス分けの実技テストにおいて、障がいの影響を過小評価する結果につながりやすいこともよく知られていることである。パラスポーツにおいて、障がいの競技に与える影響の技術的な克服は、当該クラスに参加する資格を失う結果を導きかねないという矛盾を常に抱えているのである。クラス分けは、障がいを持つ人々が、フェアーでフラットな土俵で競技スポーツを追求することを可能にするものであると同時に、そのパラアスリート生命を左右する運命の分かれ目でもある。この重要なクラス分けがパラリンピックの直前にまで残されるという状況は選手側としても運営側としても避けたかったことであることは言うまでもない。知的障がいは先天性のもの(18歳未満で確認)であることとされ、早い段階でクラス分けを確定し、パラ・アスリートとして成長していく道を示すことが必要かつ重要である。日本のパラスポーツの普及・強化体制が、障がいを持つ子どもたちやパラアスリートたちにとってインクルーシブでフレンドリーなものになるように、東京パラリンピックがその機会になれるように、社会全体で考え、行動していくことが、今、求められている。