勝負の不思議(全日本卓球クラブ選手権大会)
「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」という格言がある。どちらかというと負けたときに思い出す言葉である。4年ぶりのこのクラブチーム最高峰を争う大会は、卓球仲間がもっとも楽しみにしている大会である。私の九十九チームは東京の激戦を勝ち抜いて、金沢市で開催された本大会に参加した。私たちは、第3シードの福岡のアカシアのブロックに入る。
最初の試合が、長野の須坂卓翔会。練習もなく試合になるため、調子が読めない。昨日の多球練習でダブルスのレシーブ練習をやりこんだためか、右上腕の筋が固くなっている。サーブが出せない。ダブルスでは、レシーブもサーブもうまくいかず、ゲームオール3-7で崖っぷちの状態。河島さんのレシーブとサーブに救われ、逆転勝ち。椋くんが勝って、2-0としたところで、ダブルスでサーブに苦しめられた左ペンの青木選手と対決。まず、最初に私のサーブミスで始まる。レシーブもやはりできない。サーブが出せないため、リズムに乗れず、8-10でサーブから挽回と思ったが、やはりサーブミスして1ゲームを落とす。2ゲーム目は、フォア前へのアップサーブをどうしてもオーバーミスして、一度も返球できないままでゲームを落としてしまった。青木選手はバックプッシュやスマッシュをしっかり入れてきていい形ができていた。こんなに自分の試合の形がつくれないまま負けてしまうという経験は、初めてののマスターズ予選で何もできないまま0-3で負けて以来かな。
持ってきた低周波マッサージ器で右腕に刺激を与えながら、足を動かして、トイレに行って、次のダントツに強いと聞いているアカシア戦に備える。
約1時間後、コートに入ってから、体調がかなり良くなったと感じる。手も足も動きそうだ。一発目から回り込み三球目ドライブを決める。よし、動くぞ。サーブ、レシーブは無難にいく。攻撃が入るようになったのはいいのだが、相手の緒方・向山組は、背が高く威圧感抜群。とにかく、ミスが少なくボールに合わせるのがうまい。緒方選手は中国からの帰化選手とのことで、粘着ラバーでストップがうまく、切れている。スマッシュを打っても、強い山なりのドライブで返球されて、逆にポイントを取られ、勝機をつかみきれない。結局競っても0-2で負け、非常に苦しい展開。頼みの二番手の椋くんが、1ゲーム目リードしてゲームポイントを握るも勝ちきれず、ジュースを重ねた末に粘り負け。そのまま勢いにのれずに0-2とされる。
三番目の私の相手は、アカシアのエースの緒方選手。見るからに強そうで、実際はもっと強い。相手は最初の試合だから、とにかく前半で飛ばすしかない。ロングサーブから三球目を決めて、前半4-0、7-3とリードするも。とにかく、ドライブがうなるような回転とスピードで、目にも留まらぬというのは、このことなんだな、と実感。ボールにふれることもできない。あれよあれよと9-9。とにかく食らいつくしかない。フォアにプッシュでもしようものならフォアドライブがこちらの台に突き刺さる。バックハンドのほうがずっとましだと、バッククロスにボールを集め、ドライブ攻撃だけはバックとフォアに散らす。とにかくレシーブも全て回り込みドライブで食らいつき、11-10。ここで初めてフォア前にっ短いサーブを出すとバックに払ってきた。これをプッシュしたボールが変化して、ミスを誘う。どうしても必要だった1ゲーム先取。
2ゲーム目は実力差であっさりと負ける。
さて勝負の3ゲーム目。レシーブを回り込んでドライブし続け、サーブからの3球目で3-3。バッククロスのラリーから高いドライブを抑えてカウンター気味に返球。粘り勝ちで5-3でチェンジコート。後ろからのバックストレートのドライブには手をだすことができて運良くフォアクロスギリギリにポトリと入る、7-3。私のアップ系のロングサーブが効いて、レシーブミスを誘い、9-3。それでも逃げ切る自信があるわけではない。私のバッククロスのドライブを見事なカウンターブロックで返され10-5。ここで私のバックプッシュがネット気味に入って、チーム仲間からみても思いがけない勝利が転がり込んできた。
「不思議な勝ち」だった。こういう勝ち方は、団体戦で発生することが多いように思う。園田監督や河島先輩が、勝てる(可能性がある)と応援しつづけてくれたことが大きい。これでいいのかと、迷うことなく、ボールに食らいつくことができた。河島先輩に、よくあのサーブを回り込めたな、と言われ。その原因を考えてみた。最近、回り込みの練習を増やしていたこともあるが。ラリーに強い中国選手に共通することかもしれないが、緒方さんは、とにかくサーブ・レシーブをしっかり出してミスしないようにしている。サーブのタイミングやボールのあげ方、ラケットで打つ位置とかを変えて、相手のスキを突いたり、意表をついたり、することがないので、こちらもレシーブで足を動かすタイミングをあわせることができたことが大きいように思う。横綱相撲の緒方選手に対し、こちらはゲリラ戦法で撹乱して、3ゲームマッチという短期決戦において、不思議な勝ちにつなげることができたのだろう。とてもいい勉強をさせていただいた。どうもありがとうございます。
団体戦の結果は、河島先輩が向山選手に敗れ、1-3で、予選通過、ベスト8ならず。無念のクラブ選手権大会となった。5番手の佐藤(サトケン)さんは結局、金沢まで来て、一球もボールに触ることもなく大会終了。これも寂しい珍記録となった。せめて、大会の朝ぐらい練習させてもらいたいものだ。コロナという理由があるとはいえ、アスリートファーストとは言えない状況が続いている。選手としては、毎日の練習以外でも、大会前日、当日を含めた練習場所の獲得を考えなければ、ベストの状態はつくれない。
「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」(松浦静山:江戸時代中・後期の肥前国平戸藩の藩主、剣術の達人 / 1760~1841)

