「汝、星のごとく」を聴いて
著者:凪良ゆう
人気の本ということで、最近の小説を聴いてみた。
恋人同士である井上暁海(あきみ)と青埜櫂(かい)が、交互に主人公となって話すので、最初は違う小説を聴いたのかととまどった。同じ情景を見ていても、同じ行為を行っていても、その見方や感じ方、思っていることはまるで違うことを改めて聴く者に深く感じさせる小説である。
シングルマザーとその子供、LGBTというマイノリティ、田舎の島という閉鎖社会、現代社会の片隅においやられた人々の精神世界と生きるための葛藤を映し出しながら、あまりにも深く強く純粋でありつづけた男女のラブストーリー。
二人をひきさいている最も直接的で痛ましい要因は、それぞれの母親(他人依存症のシングルマザーと夫を不倫相手に取られたうつ病患者)で、あきみを見守るのは風変わりな教師と父親の不倫相手の女性、櫂を助けるのは編集担当の仕事仲間たち。男の漫画家としての成功ゆえに女は去り、女の刺繍作家としての成功が男と再会する力をもたらす。二人の恋愛はほんの短い間だけ成就するわけだが、めでたしめでたしの最後ではない。アンバランスでイレギュラーな、それでいて安堵感のある家庭生活がつづいていく。残ったのはひとつのドラマのあとのしずけさ。
そして、たぶん、閉められていたもうひとつのドラマの扉。