Bhutan

ブータンは、インドと中国という両大国に挟まれたヒマラヤの仏教王国である。人口は約75万人。国土面積は九州とほぼ同じであるが、ヒマラヤ山脈の7000m以上の高山地域からインド国境の亜熱帯性の地域までを含み、生物の多様性にも富んでいる。ブータンは長らくヒマラヤの秘境として知られ、国際舞台に登場するようになるのは1971年の国連加盟以後である。日本と国交を樹立したのが1986年で、2016年12月には、国交樹立30周年記念事業のフィナーレを飾るイベントとして日本卓球協会のミッションがブータンを訪問して親善交流を行っている。

ブータン卓球連盟は1988年に設立された。1994年の広島アジア競技大会へのブータン選手の参加をきっかけに、広島の船越公民館の支援を受けて、毎年、船越杯・国内トーナメントを開催している。青年海外協力隊の卓球隊員の派遣実績があり、その指導のもとでブータンは2009年の横浜で開催された世界卓球選手権に参加している。2016年のブータン訪問団の有志メンバーや日本ーブータン友好協会の支援を得て、ブータン卓球連盟は、選手強化を主目的とする日本訪問を2017年の12月に実施している。ブータン卓球連盟はパラ卓球の振興に目を向けており、2019年の1月には身体障がい者と健常者の卓球キャンプを実施している。

シチズン時計・協和キリン卓球チーム・ブータン卓球親善交流ミッション    (2016. 1.28 ~ 2. 3)  

  1. 背景及び目的

2016年12月に、国交樹立30周年記念事業のフィナーレを飾るイベントとして日本卓球協会のミッションがブータンを訪問して親善交流を行った。今回の訪問団は、その時のメンバーの一員であった伊藤誠シチズン時計監督と協和キリンの佐藤真二監督の国際的な社会貢献活動への情熱によって実現したものである。2016年の時点ではまだ計画の段階であった卓球ホールの建設が、およそ2年の月日をかけてついに終了した。ブータン王国初、国内で唯一の卓球ホールの完成を祝って、親善交流大会を実施した。日本とブータンとの卓球交流を促進し、日本の国際貢献の一翼を担う活動としてSport for Tomorrowにも承認されている。東京オリ・パラを盛り上げ、成功させるという使命があり、今回の訪問団も健常者と身障者の卓球競技者が一緒になってプレーするというインクルーシブ・スポーツを推進するという目的を持っていた。ブータンでは障がい者スポーツはまだ端緒に着いたばかりである。ブータン・パラリンピック委員会(BPC)がブータン・オリンピック委員会(BOC)の下部組織として発足したのは昨年(2018年)であり、BPCに関する職務は一人のBOCスタッフが他の競技とともに兼務している状態である。

II.   ブータンにおける活動

1.ブータン全国卓球大会の決勝戦の観戦および閉会式への特別ゲストとしての参加(1/29)

2.ナショナルチームを含むブータンの卓球少年少女への技術指導(1/30および2/2)

3.プンツォリン市におけるブータン・日本・インドの3か国親善交流大会への参加(1/31)

4.ブータン・ナショナルチーム及びブータンのパラ卓球選手との親善交流大会(2/2)

5.    ブータン・オリンピック委員会への表敬訪問(1/29)

6.    国際協力機構(JICA)所長および青年海外協力隊調整員との意見交換(1/30)

7.   ブータン日本語学校の訪問及びブータン人学生との親善交流(2/1)

III. 交流活動の評価と今後のフォローアップについて

III.1.  ナショナルチーム・メンバー

今回の訪問団の成果をブータンのナショナルチームメンバーと話してもらった。その内容は下記のとおりである。

成果・学んだ点今後の改善点・フォローアップ
技術レベルの格差を肌で感じた。ボディーワークと腕の使い方フットワークの使い方サービスの種類と出し方レシーブ力の違い練習の内容の深さ(単位時間当たりの効果)ラリー中、相手のトップスピン攻撃球に対する攻撃的で多彩な球種を使った返球試合の中での戦略を持つ。横の動きと目線の高さを維持することの大切さ メンタル・態度面 日本の選手はとても礼節を大事にし、強くても威張らずにとても謙虚な姿勢を持っていた。(インドの選手は非常に傲慢で礼節に欠けていた)もっと練習しなければならない。もっと大会や試合数を多くして、国内で勝とうという守りの姿勢から脱却したい。イメージトレーニングを取り入れたい時間の使い方、時間管理をしっかりとしたい継続は力。コーチとしても選手としても努力を続けたい。勉学に励みながら、卓球の練習や指導を続けたい。選手団からもらったインスピレーションを大事にしたい。

III.2.  ブータン日本語学校の学生たち

今回の訪問団の成果に関して、陰の功労者がいるとすれば、それは日本語学校の学生たであろう。学校の創設者である青木かおるさん他、4人の日本人女性教師が常駐してこのブータン日本語学校を運営している。この学生に今回の訪問団について感想を聞いてみた。

訪問団と接しての感想今後について
毎日30分、1か月間でおよそ12時間、今大会で披露する踊りの練習を行った。それはとても楽しいことだった。本番での踊りは楽しくできて、うまくいったと思う。日本の選手は完璧主義者だと思う。プレーを見ていて楽しかった。日本選手はとても友好的だった。日本選手はとても態度がよかった。日本選手から態度、考え方、文化を学んだ。日本選手とプレーすることを楽しみにしていたが、自分たちは打つ機会がなくて残念だった。2月17日に日本に行けるかどうかの大事な試験があり、この試験に向けて集中的に勉強する。日本で3-5年働いてお金を貯め、ブータンでビジネスを始めたい。日本で看護師として働き、ブータンに帰ってからも看護師として働きたい。日本で就職して、なるべく長く滞在したい。  

皆、20代前半の若者である。女性も多く、両親や家族の不安はないのかと訊ねると、みんな日本に行って経験を積むことに賛成してくれているという。3-5年でブータンに帰国するという計画の学生が大半だった。日本での結婚や永住する可能性については、ありえないことと否定はしていなかった。2017年の国勢調査によると、ブータン国内のブータン人の総人口は68万人で、外国人は5.4万人である。そのうち20代のブータン人口は約14万人であるから、数百人の20代のブータン人の若者が日本に働きにでるという現状は、人口増加率がすでにゼロに近づいたとみられているブータン王国にとって、無視できない数となっている。若者の就職難という問題を抱え、しばらくは増加の一途をたどるとみられ、日本とブータンの関係にもっとも大きな影響を持つグループといえよう。シチズン時計と協和キリンの卓球チームが日本のイメージや美徳を少しでも伝えることに貢献できたことは意義のあることと考える。