スポーツと人権・環境・開発

投稿日: 更新日:

【スポーツする権利】

スポーツと国連や国家の開発政策との結びつきは比較的新しい。国連ではユネスコが、1952年からスポーツをそのプログラムに取り入れるようになり、国家としてはドイツが1960年に「スポーツフォーオール」を推進する国家プランを立てている。これが基になって、1975年のヨーロッパスポーツ・体育担当大臣等会議において「スポーツフォーオール・ヨーロッパ憲章」が採択され、1978年の第20回ユネスコ総会において、「(第1条) 体育・スポーツの実践はすべての人にとって基本的権利である。」ことを宣言する「体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章」が採択されている。この国際憲章の前文の中で「 体育・身体活動・スポーツは、自然環境において責任をもって行われることで豊かになること、ひいてはそれが地球の資源を尊重し、人類のより良い利益のための資源保護と利用への関心を呼び起こす」[i]と述べrられており、この体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章が持続可能な開発(SDGsや地球憲章)と共通する理念を持つものであることが理解できる。

【スポーツと地球環境】

しかるに、肥大化・商業化を続けてきたオリンピックの現実は、1990年までは環境保護団体などからの非難を受け、開催地の選択にも滞る状況だったのである。リオで地球環境サミットが開催された1992年のバルセロナ・オリンピックにおいて、全参加国のオリンピック委員会が「地球への誓い(The Earth Pledge)に署名し、世界のスポーツ界も積極的に環境に取り組む意志を示す。そして、1994年のIOC創立100周年を記念するオリンピックコングレスにおいて、オリンピック憲章に初めて「環境」についての項目が加えられ、“スポーツ”、“文化”、“環境”は、オリンピック・ムーブメントの三本柱とされた。1995年にIOCは「スポーツと環境委員会」を設置し、以後、「IOCスポーツと環境世界会議」を定期的に開催している。20世紀初頭に、クーベルタンらによって復興した近代オリンピックは、第一次・第二次世界大戦による中断に見舞われながらも、国際社会の平和を促進するメッセンジャー的な役割を担い、1999年には「オリンピックムーブメント アジェンダ21(持続可能な開発のためのスポーツ)」[ii]を採択し、スポーツの地球環境保全に向けての行動指針を明らかにしている。

【MDGs・SDGsの手段としてのスポーツ】

21世紀に入ると、スポーツを主要な目的として、平和教育や環境保護といった目的との協調をはかるIOCに代表される従来のアプローチに加えて、開発や平和という目的を達成するための手段としてスポーツに期待する国連に代表されるアプローチが顕著になってくる。2001年にコフィ・アナン国連事務総長が、スイスのアドルフ・オギ前大統領を「開発と平和のためのスポーツ」特別アドバイザーに任命し、2002年には、国連組織間で開発と平和のためのスポーツ・タスクフォースが結成された。当タスク・フォースは、翌2003年に「開発と平和のためのスポーツ:ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けて」と題する報告書を作成し、その中でスポーツを、MDGsを実現する上で「コストが安く、効果も大きく、強力な手段である」と規定している(内海, 2016)。また、同年、国連総会は、「教育,健康,開発そして平和を促進する手段としてのスポーツ」と題する決議を採択し、2005年を「スポーツと体育の国際年」と定めて、その啓蒙と実践に努めることを提唱する。2009年にIOCは国連総会のオブザーバーとしての地位を承認され、国連とIOCの協力関係が更に強化される。MDGsを引き継いだSDGs(2030アジェンダ)の中でも、SDGsを達成する上で、スポーツは以下のような貢献を期待されている。

37.(スポーツ)スポーツもまた、持続可能な開発における重要な鍵となるものである。 我々は、スポーツが寛容性と尊厳を促進することによる、開発及び平和への寄与、また、 健康、教育、社会包摂的目標への貢献と同様、女性や若者、個人やコミュニティの能力強化に寄与することを認識する。[iii]


[i] 文部科学省(https://www.mext.go.jp/unesco/009/1386494.htm)アクセス2022年1月10

[ii] 日本オリンピック委員会 (https://www.joc.or.jp/eco/pdf/agenda21.pdf) アクセス 2022年1月20日

[iii] 国連広報センター https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/

sustainable_development/2030agenda/ アクセス 2022年1月10日

コメントを残す