月別: 5月 2023
「チームひな」が世界最大最強の「卓球中国」に劇的な勝利。卓球界に新しいフロンティアが拓けるのか?
昨夜の世界卓球選手権大会(於:ダーバン、南アフリカ)の女子シングルス準々決勝で、早田ひな選手が、世界3位の王芸迪選手(中国)を4―3で破った。カウントは、4-11/11-3/11-9/6-11/11-9/8-11/21-19。
特に、ファイナルセット、8-10から9回のマッチポイントをはねかえしての21-19の勝利は、卓球の歴史と見る者の心にのこるファンタスティックでエキサイティングなドラマだった。
早田ひな選手はインタビューに答えてこう述べている。
「中国(選手)の壁を超えるために、チームひなの皆さんに支えてもらってきたので、この大舞台で勝つことができて嬉しいです。」
個人競技であるテニス、陸上等のオリ・パラスポーツで、世界を目指す選手をサポートするボランティアも含めたチームが形成されることがある。プロスポーツで経済的にゆとりのある選手なら自分のチームを作ることもできるが、卓球のようにプロとして自立することすら大変な競技では、世界チャンピオンを目指せるようなチームを個人がつくることは、かなりの困難であり不可能に近いことだろう。ましてや、さまざまな国際大会への参加申請すら、テニスのように世界ランキング選手の自由意志で決められるわけではなく、日本(各国)の卓球協会にコントロールされているわけだから、大会へ向けた調整すら自分ではスケジュールを決められない。
卓球中国は言わずとしれた中央集権型の巨大卓球企業であり、周恩来首相のお声掛りで中国の建国期から始められたもっとも長い国家プロジェクトである。当然のことながら、卓球中国は世界最大の市場である中国国内のモノポリーを有し、世界においても裾野からトップまでの最大の卓球消費者を抱える寡占企業である。世界チャンピオンレベルの選手層において、ほぼ独占状態を数十年にわたり続けている信じ難いパフォーマンスを誇っている。現代にいたっても企業努力を怠らず、その地位も強まるばかりである。
スポーツ界においては、個人の努力と栄光を称える風潮が主流であり、国家は表面にでないことが基本となっている。「政治とスポーツは別もの」であるべきもの。ただ国家がスポーツを支援することは称賛されることであり、スポーツが国民を鼓舞することや経済効果をあげることも大切な役割であると考えられる。卓球中国はその一つの典型なのだろう。
さて「チームひな」という小さな個人グループ(企業ですらない)を母体とする早田ひな選手が、卓球中国のチャンピオン軍団のトップメンバーを世界卓球選手権大会という世界最高の花形舞台で撃破するという歴史的な快挙を成し遂げた。この意義は決して小さなものではないだろう。世界の先端技術において、個人のグループがGAFAに勝利したようなものなのか。スポーツではレベルプレイイングフィールド(level playinng field)と言って「同じ条件、同じ土俵」で戦うことが保障されている。経済の市場原理は実はそうではない。かといって、スポーツの勝負は、そもそも土俵にあがる前についていることも、実力差のある選手の試合を見れば明らかなことである。アマチュア相撲のチャンピオンを大相撲の力士と対戦させても結果は見えている。
今後、チームひな、のような個人グループが世界最大最強の卓球中国企業に勝つような現象が起こるとしたら、これは卓球界における歴史的、コペルニクス的転換と言っていいだろう。個人のチームが国家企業に優っている点があるとすれば、個人の特徴、性格、コンディションに合わせた調整ができることだろう。また、選手一人にかける費用という点では、一企業でも支えられる程度のものだろう。大谷翔平選手クラスでも、彼個人にかけられた費用はリーズナブルなレベルだと思われる。
それでも、国際大会という主戦場でプレーするには、「卓球日本」という中小企業のサポートが不可欠である。今のところ、そのサポートは「卓球中国」と比較してあまりにも貧相である印象は否めない。おそらく、選手自身が一番それを痛感しているのではないだろうか。
「チームひな」や「張本ファミリー」が、「卓球中国」という世界を牛耳る国家企業に対抗して、新しい卓球界の歴史とフロンティアを拓く契機とならんことを、祈り、むちゃくちゃ応援したいと思う。